医療や介護の世界は、まれに『制度ビジネス』であると言われることもあります。
これは、国民皆保険制度を背景に、診療報酬や介護報酬といったサービス提供価格が公定価格として定められているからです。さらに、診療報酬は2年に1回、介護報酬は3年に1回の頻度で見直しが行われ、国が目指す社会保障の将来像に近づけるように政策誘導がなされます。
その結果、医療機関や介護事業所では、厚生労働省が示す計画や、それに紐づく報酬体系をモニターしていれば、ある程度の経営ができるような構造になっていると言っても過言ではありません。
さらに、そのような経営が続くと、組織全体の思考停止が始まり、変化を嫌ったり、抜本的な改革ができない状況に陥ることも珍しくありません。
しかし、皆さんもご存じのように、社会保障費は増加の一途をたどり、財源確保のための消費増税を繰り返し、介護保険料率も伸び続けています。
病院や介護事業所の倒産も増え、少子高齢化で患者や利用者を確保することも容易ではないという時代に突入しています。
イギリスの自然科学者であるダーウィンは、自書の進化論の中でも「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。 唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」という言葉を残しています。
さらに、医療の世界では身近なナイチンゲールも、「進歩し続けない限りは、 後退していることになる」という言葉を残しています。
つまり、組織は、時代や社会環境の変化の中で、その時その時の最適を探し求めながら、変化し順応していくことが、経営の本質なのであろうと私は考えます。
先にも言ったように、組織は往々にして硬直化しやすいものでもあります。経営者は、イエスマンを身近においていた方がストレスはないでしょうし、それで目の前の経営が成り立っているのであれば、あえて変化を求める必要性もなくなってしまいます。
しかし、世の中で成功していると言われている企業というのは、常にエンドユーザーを見つめ、柔軟に変化することにチャレンジしています。
私たちの心を打つ成功ストーリーは、その大半が、大きな失敗から本質に気づき、自分が変わることを決意し、チャレンジした結果、成功をつかみ取るストーリーなのです。
では、どのようにして組織のイノベーションを起こすことがよいのでしょうか?
その一つの解は、組織の淵に注目することです。
組織の淵とは、経営者のイエスマンではなく、少し距離を置いていたり、否定的な意見を述べるような人たちをイメージしてください。
これらの人たちは、今の経営方針や運営手法に対して不満を持っていることが多々ありますが、その意見こそがイノベーションのヒントになるということです。
組織に対して不満を持っている人たちの意見(場合によってはマイノリティかもしれませんが。。。)を、塞ぎ込むのではなく、「何が不満なのか」「どういう改善が必要なのか」ということをヒアリングし、その結果、今の組織にイノベーションを起こし、組織を今よりも良い方向へ進めることができるのかを判断していくことが大切です。
もちろん、今の組織に否定的な意見を持つ人たちと話すことは、双方にとってストレスがかかることかもしれません。しかし、「これではダメだ」と感じている人たちの意見というのは、本来は、組織のイノベーションを行う上で貴重な意見なのです。経営陣は、そこから逃げずに真正面から向き合う勇気と本気度を持つことが必要です。
ダイバーシティ(価値観の多様化)が求められる昨今の経営マネジメントにおいて、まずは、今の運営や経営に対してネガティブな意見を持っている人を受け止め、双方が納得できるまで意見交換し、組織のあるべき将来像をクリアにして、そこに向かってイノベーションを起こしていくことが、時代の変化に対応できる良い組織ということができるのではないでしょうか。
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